20歳以上60歳未満の全国民は国民年金保険料を納付することが義務づけられています。国民年金保険料を支払っている状態から、厚生年金保険に加入している会社に就職した場合、厚生年金保険料として給料から天引きで支払われることになります。逆に、定年退職を迎える前に、会社を退社した場合、厚生年金から国民年金に切り替わります。このタイミングで未納となる場合があります。例えば、転職をするときに一時的に職を離れた方が対象となります。
それでは「どのような場合に未納となってしまうのか?」「未納としないためには何をすればいいのか?」「扶養家族についてはどうすればいいのか?」について手続きなどを説明します。
国民年金と厚生年金の切り替えの説明のための前提知識
国民年金と厚生年金の切り替えを説明する前に、「国民年金第○号被保険者」という言葉を知っておくと理解しやすいです。それぞれの意味についてまとめました。例を挙げるとわかりやすいので、次の例を使いましょう。
Aさん:厚生年金保険に加入している企業で働いている会社員。 | |
Bさん:Aさんの配偶者。元は、Aさんと同じ会社勤務で、現在は無職。 | |
Cさん:Aさん、Bさん夫妻の隣にすんでいるフリーランスのプログラマー。独身。 |
区分 | 意味 | 例 |
国民年金第1号被保険者 | 20歳以上60歳未満の自営業者・農業者とその家族、学生、無職の人 | Cさん |
国民年金第2号被保険者 | 国民年金の加入者のうち、民間会社員や公務員など厚生年金、共済の加入者 | Aさん |
国民年金第3号被保険者 | 国民年金の加入者のうち、厚生年金、共済組合に加入している第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者(年収が130万円未満の人) | Bさん |
さて、いよいよ本題の国民年金と厚生年金の切り替えについてを説明します。
国民年金と厚生年金の切り替え時に未納になる場合とは?
厚生年金保険に加入している企業に就職した時には、企業側で切り替えの手続きをしてくれるため、手続きは不要です。つまり自動的に国民年金から厚生年金の納付に切り替わります。しかし、その企業を退職し、国民年金に切り替えるときには、自分で手続きをする必要があります。切り替えとは、厳密に言うと、厚生年金保険の脱退と、国民年金保険への加入です。
厚生年金保険の脱退は、退職時に企業側が手続きをしてくれるので、自分で手続きする必要はありません。しかし、国民年金保険への加入はする必要があります。この切り替え手続きをしなければ、国民年期が未納状態になってしまします。
具体的な例で国民年金と厚生年金の切り替えについて見よう
例えば1月1日に退職した場合を考えましょう。1月2日に、次の企業に転職した場合は、問題ありません。それは、退職した企業の厚生年金の加入資格が失われるのが、「退職日の翌日」だからです。そのため、加入資格が失われると同日に、別の企業で厚生年金に加入していれば、厚生年金を管理する企業が変わるだけなので、未納状態にはなりません。しかし、1月3日以降に別の企業に転職した場合は、1日間だけ国民年金保険に加入しておかなければなりません。
この例は極端ではありましたが、退職してしばらくのんびりしようと考えて、国民年金の加入手続きをしていない場合、国民年金未納状態になってしまいます。
国民年金と厚生年金の切り替え時に未納にならないために
国民年金と厚生年金の切り替え時に未納にならない方法は2つあります。
退職日の翌日に厚生年金保険に加入している企業に入社する
先の例でも挙げたとおり、退職日の翌日から厚生年金保険に加入している企業に入社すれば、自分で手続きすることなく、未納状態を回避できます。注意するのは、「厚生年金保険に加入している企業」に入社する必要があります。
厚生年金保険に加入していない企業に入社した場合は、会社側で切り替え手続きをしてくれませんので、自分で国民年金保険への加入手続きをする必要があります。そのため、転職するときは、転職先の企業が厚生年金保険に加入しているかは、確認しておいてください。
退職日の翌日以降に国民年金への切り替え手続きをする
退職日の翌日以降に国民年金への切り替え手続きをすれば大丈夫です。正式には「国民年金第1号の資格取得の手続き」と呼びます。手続きは、現在お住まいの市役所、区役所または町役場で手続きをすることができます。持って行くものとしては次のものを持って行けば大丈夫です。
- 印鑑
- 本人・被扶養者の年金手帳(もしくは基礎年金番号通知書)
- 退職した日がわかるもの(離職票や退職証明書など)(*1)
(*1)退職日の翌日(国民年金加入日)がはっきりわかるものを持って行けば大丈夫でしょうが、各役所に問い合わせた方が無難でしょう。
国民年金保険から厚生年金保険への切り替え手続き
次に国民年金と厚生年金の切り替え手続きについて詳しく説明します。
まず確認することは、「これから就職する企業が、厚生年金保険に加入しているか?」です。この企業が厚生年金保険に加入していない場合は、企業に就職したとしても、国民年金第1号被保険者となり、切り替え手続きは不要です。ただし、国民年金保険料は自分で支払う必要があります。
以上のような場合は、切り替え手続きは不要なので、対象外とし、厚生年金保険に加入した企業へ就職した場合、について説明します。
雇用者側の切り替え手続きについて
厚生年金保険に加入している企業に就職した方は、役所に対して手続きをする必要はありません。ただし、企業側に対して、次のような情報を提供する必要があります。これは国民年金保険から厚生年金保険へ切り替えるときに、本人確認をするために必要なものなので、ミス無く連絡してください。
- 氏名
- 生年月日
- 性別
- 住所
- マイナンバー
- 基礎年金番号
企業側の切り替え手続きについて
先に説明したとおり、従業員の国民年金保険から厚生年金保険の切り替え手続きは、企業側が行います。提出する書類は、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」です。資料のフォーマットは「こちら」を参照してください。本書類を提出前には、先に挙げた情報で本人確認を必ず行ってください。用意した書類の提出先は日本年金機構です。
他、締め切り等は次のようになっています。
項目 | 内容 |
提出時期 | 事実発生から5日以内 |
提出先 | 郵送で事務センター (事業所の所在地を管轄する年金事務所) |
提出方法 | 電子申請、郵送、窓口持参 ※届出用紙によるほか、電子媒体(CD又はDVD)による提出が可能です。 |
厚生年金保険への加入手続きをすると、自動的に国民年金保険は脱退したことになるので、国民年金保険脱退手続きは不要です。
厚生年金保険から国民年金保険への切り替え手続き
何らかの事情により退職し、被扶養者とならない場合、厚生年金保険から国民年金保険への切り替え手続きが必要です。別の言い方をすると、国民保険第2号被保険者から国民保険第1号被保険者への切り替えが必要と言えます。
この手続きは、企業側はしてくれないので、退職された人が行う必要があります。それでは企業側は何もしないのかというと、そうではなく、厚生年金保険の資格を喪失させる手続きが必要です。それぞれの手続きについて説明します。
企業側の厚生年金保険資格喪失手続き
企業側は退職者の厚生年金保険の資格を喪失させる手続きするため、「被保険者資格喪失届」を作成する必要があります。本資料のフォーマットは「こちら」を参照してください。資料を作成したら、日本年金機構に提出します。
他、期日などは次のようになっています。
項目 | 内容 |
提出時期 | 事実発生から5日以内 |
提出先 | 郵送で事務センター (事業所の所在地を管轄する年金事務所) |
提出方法 | 電子申請、郵送、窓口持参 ※届出用紙によるほか、電子媒体(CD又はDVD)による提出が可能です。 |
厚生年金保険に切り替えたときとは、異なり、国民年金保険へ自動的に切り替わりません。国民年金保険に加入しなければならない人、になっただけです。そのため退職者自身が、国民年金保険へ加入する手続きが必要になります。なお、退職だけではなく、従業員が残念にもお亡くなりになった場合にも、本手続きが必要となります。
退職者が行う国民年金加入の手続き
国民年金保険に加入する場合は、「国民年金第1号被保険者の資格取得手続き」が必要になります。最寄りの市役所、区役所もしくは町村役場で、手続きを行います。手続きの場合は、基礎年金番号を記載する必要があるので、年金手帳を持参した方が良いでしょう。また、運転免許証やパスポートなどの本人確認資料があると、より安心して手続きが行えます。
詳細は、前述してある「退職日の翌日以降に国民年金への切り替え手続きをする」を参照ください。
国民年金と厚生年金の切り替え時に扶養家族については?
次に扶養家族についてです。家族の職業が変わるなどの環境の変化により、納付すべき年金も変化します。それぞれについて手続きを漏らさないように、ケース別について説明します。
扶養者が会社を退職して、厚生年金から国民年金に切り替える場合
Aさんが何らかの理由で退職したときに、Bさんの国民年金の切り替えはどうすればいいのか?というケースです。結論から言うと、AさんとBさんは共に、第1号被保険者に変更されるので、二人分の「国民年金第1号の資格取得の手続き」が必要になります。
整理すると次のようになります。
被保険者 | 切り替え前 | 切り替え後 | 手続きで必要なもの |
Aさん | 第2号被保険者 | 第1号被保険者 | 年金手帳 退職した日が分かる書類 |
Bさん | 第3号被保険者 | 第1号被保険者 | 年金手帳 扶養が外れた日が分かる書類 |
扶養者が会社を転職して、厚生年金を管理する企業が変わる場合
Aさんが転職して、別の厚生年金保険に加入している企業に就職した場合は?というケースです。Aさん、Bさんともに、何も手続きをする必要はありません。Aさんについては、厚生年金保険の切り替え手続きは企業側が行うので、個人的な手続きは不要です。ただし、会社側にBさんを扶養家族とする申請は必要になります。Bさんについては、第3号被保険者のままなので、手続き不要です。
結婚して退職し、被扶養者となる場合
かつて、AさんとBさんは同じ企業に勤めており、めでたく結婚しました。Bさんは専業主婦になるため、会社を退社した場合、Bさんは第2被保険者でしたが、第3被保険者に変更になります。AさんはBさんを扶養することになるので、会社に対してBさんを第3被保険者にするための、手続きが必要となります。
被保険者 | 切り替え前 | 切り替え後 | 手続きで必要なもの |
Aさん | 第2号被保険者 | 第2号被保険者 | ー |
Bさん | 第2号被保険者 | 第3号被保険者 | ー(会社側が対応します。) |
離婚して被扶養者を外れる場合
残念ながらAさんとBさんが離婚し、Bさんが被扶養者から外れる場合です。Aさんは会社側に離婚する事実を伝え、Bさんを被扶養者から外す手続きが必要です。またBさんは第3被保険者から、第1被保険者になるので、「国民年金第1号の資格取得の手続き」が必要になります。
整理すると次のようになります。
被保険者 | 切り替え前 | 切り替え後 | 手続きで必要なもの |
Aさん | 第2号被保険者 | 第2号被保険者 | ー |
Bさん | 第3号被保険者 | 第1号被保険者 | 年金手帳 扶養が外れた日か離婚した日が分かる書類 |
最後に
大変な仕事から退職するとき、「早く新しいことにチャレンジしたい!」「解放されたい!」と気持ちが先走ってしまうでしょう。しかし、地に足を付けて落ち着いて、まずは国民年金保険に加入する手続きを行ってください。
現在の仕事を辞め、新しい企業に就職するにしても、フリーランスなど個人で活動するにしても、国民年金を納付する義務を怠らないようにしましょう。